ハッカソンの目的とプログラム開発力の重要性
¶ (バイオ)インフォマティクスの目的は、単に「ソフトウェアを作る」ことにとどまりません。また一方、「実験データを解析する」ことのみを意味しているわけでもありません。最も“尖った”立場では、「理論生物学のための基礎研究」を行うことこそが、(バイオ)インフォマティクスの本質である、ということにもなるでしょうし、逆に、バイオインフォマティクスの研究者を「研究所内のネットワークの管理」のために雇用しているところもあります。
しかしいずれであるにせよ、「プログラムを書いてデータを処理する」能力は(それがどれほどシンプルなプログラムだとしても)(バイオ)インフォマティクスには必要な条件である、と考えられるでしょう。仮に自分が実際には殆どプログラムを書かなくても、「プログラムを書く能力」を基にしなければ、「プログラムやデータベースを開発・運用する」ことは難しいからです。
なお、「プログラムは書かないが、既製のソフトウェアを使いこなしてデータ解析ができる」人は、「(バイオ)インフォマティシャン(インフォマティクスの研究者)」と呼ぶのは適切ではないと考えられます(これは呼び名についての見解であって、その能力の重要さについて述べているのではありません)。
¶ そこで、「情報交換やデータ取り扱い上の規則の決定などを行いながら、プログラムまたはプログラムを運用するために必要なデータを整備し、或いはデータベースを構築する(ための準備を行う)」ことを目的として、インフォマティクスの研究者・開発者が集まり、ハッカソンを開催しています。
教育的効果
¶ ハッカソンの重要な目的の一つは、教育的効果です。日本のバイオインフォマティクス研究はゲノム系の研究へのバイアスがあり、バイオインフォマティクス系のラボの学生は、質量分析分野の研究・開発に触れるチャンスが殆どありません。
一方、質量分析を研究するラボに所属する(情報系の)学生は人数が少ないため、他の情報系の(若手)研究者などとプログラミング(など)について情報を交換したり、学ぶ機会が欠乏しています。
ハッカソンはこのような状況を解決する有効な方法です。これは同様に、質量分析のデータ解析やソフトウェア開発を請け負う企業などにとっても言えることでしょう。
¶ 一点だけ留意を頂きたいのは、「(本研究会の)ハッカソンで作成したソフトウェアは、オープンソースで公開する」という点です。例えば販売目的のソフトウェアの開発を行うことは、原則としてできません。これは公的資金を用いて開催しているためで、やむを得ないことであるのはご理解いただけると思います。
¶ 但しこの点についても、次のように考えていただくといいのではないでしょうか。仮に「講習会」に参加した場合、多くの場合は参加費がかかります(有料)。またそこで作成したソースは“私物として”持ち帰れるかもしれませんが、基本的には飽くまで“練習用の”コードです。また席を並べていても、必ずしも“横の”連携ができるようになるとは限りません。
これに対して(本研究会の)ハッカソンの場合、書いたコードは私物化はできませんが、基本的には「何かをするための(実用的な)」プログラムを作成しており、オープンソース化されているということは、「後で自分も利用することができる」ということです。また“講師”がいない代わりに、互いに“横の”連携を行わない限り仕事が進められませんから、人脈が自動的に広がります。そして言うまでもなく、(少なくとも現時点では)本研究会のハッカソンは参加費がかかりません。
日本に於ける生命科学系ハッカソン
日本に於ける生命科学分野の最も代表的なハッカソンとしては、情報・システム研究機構(ROIS)・ライフサイエンス統合データベースセンター(DBCLS)と科学技術振興機構(JST)・バイオサイエンスデータベースセンター(NBDC)の主催によって、2008年から毎年
「BioHackathon (国際開発者会議)」「国内版バイオハッカソン」(どちらも4~5日程度連続)が開催されています(正確には、国際版はNBDCが中心になってDBCLSが協力し、国内版はほぼDBCLSだけで実施されている)。
ここでは「バイオ」ハッカソンとして、本来のhacking(プログラム作成)にとどまらない、「生命科学データベースの構造決定」や「そのために必要な企画、オントロジーの整備」なども行われています。
Page Last Updated: July 4, 2017