本研究会の目的
バイオインフォマティクスの一つの重要な研究対象はオミックス解析であり、特に次世代シークエンサー(NGS)のデータを対象とした解析は、日本のバイオインフォマティクス研究の一大中心といえるでしょう。しかし、NGSと並ぶオミックス測定機器である質量分析計は、プロテオミクス・メタボロミクス・グライコミクスなど広範なオミックス分野で用いられ、更に非オミックス解析の分析化学でも多用されているにもかかわらず、そのデータ解析は日本では研究分野としてほとんど広がりを見せていません。
質量分析データに関わるインフォマティクス研究は、今までもデータベース構築を中心に各分野において進められてきました。たとえば日本質量分析学会(MSSJ)では1978年に『データ集積部会』が設置されて20年間活動し、さらに2012年からMassBankの発展普及のために『スペクトルデータ部会』が設置されています。
また、JST BIRDやNBDCによっていくつものデータベース計画への助成が行われており、上述の『MassBank』は2006年にJST BIRDのデータベース事業として構築が始まっています。糖鎖分野でも『JCGGDB』が、脂質生化学分野では『LipidBank』が構築され、JCGGDBの構築にあたってはLipidBankの開発者も作業に加わっていました。
さらにCREST課題からも複数の成果が得られています。たとえば2005年から5年間にわたって実施された研究領域「代謝調節機構解析に基づく細胞機能制御基盤技術」からは、「脂質メタボロームのための基盤技術の構築とその適用」課題において、脂質の質量スペクトルから構造を推定するプログラム『Lipid Search』が開発されています。また「定量的プロテオミクスとメタボロミクスの融合」課題からも、優れたファイル処理機能とスペクトル・ビューアー機能を備える質量分析用汎用プログラム『Mass++』が生まれています。
これらはいずれも目標を達成して大きな成果を挙げています。しかしながら、少なくとも現在までのところ、インフォマティクス分野との継続的な共同研究体制、あるいはバイオインフォマティクスにおける新規の研究分野の開拓へとは結びつくことはありませんでした。その原因として最も考えられるのは、このような複数分野のオミックス科学者が参加する学際研究で、ハブの役割を果たすべきバイオインフォマティクス側の対応が未整備だった、ということが考えられます。
以上のことをふまえて、本研究会は、以下の内容を目標とします:
- 質量分析分野および手法として質量分析法を用いる分野(以下、「質量分析関連分野」)に従事するインフォマティクス研究者間の“横”のつながり、情報交換を促進する
- 質量分析関連分野におけるインフォマティクスの需要についての情報拡散
- 質量分析関連分野外のインフォマティクス研究者と質量分析研究者の交流(質量分析学分野におけるインフォマティクス的問題などを、バイオインフォマティクス研究者に紹介する)
これらの目標を達成するために、関係する各分野の学会・研究会と密接に協力、恒常的な情報交換の仕組みを構築して、定期的にワークショップを行っていきます。
2016年4月25日
Page Last Updated: May 17, 2016